
出区点検とは、電車を車庫から出す前に行う点検作業のことです。
鉄道会社によっては「出庫点検」と呼ばれることもあります。
運転士がメインで行う運転業務に加え、安全運行を支える非常に重要な業務です。
今回は、その出区点検の内容をわかりやすく解説していきます。
ファルコ
1970年生まれ。鉄道会社に入社し、駅員(1年)→車掌(3年)→運転士(30年)に従事。鉄道ファンだけでなく普段から電車を利用するすべての方が分かるような記事作りを心掛けています。
この記事の目次
出区点検(出庫点検)で行う主な点検項目
実際の点検項目は100項目以上にも及びます。
ここでは代表的なものを紹介します。
番線・編成番号の確認
| 列番 | 番線 | 時間 | 編成番号 |
|---|---|---|---|
| 1002M | 6番線 | 4:20頃出区 | M06 |
まずは点検する車両を間違えないことが大前提です。
「出区表」を確認しながら、番線と編成番号をチェックします。
出区番線誤りは、まれに発生するミスの一つです。
誤りに気づくのに時間がかかると電車の遅れにもつながります。
移動禁止合図の確認

車両に赤い旗などが付いている場合、作業員が作業中であることを示しています。
この状態で点検や車両の移動を行うと、作業員に怪我をさせてしまう危険があります。
必ず、旗がないことを確認します。
バッテリー投入・パンタグラフ上昇

まずバッテリーを投入し、電車の電源を入れます。
低圧計が0Vから約90V程度まで上昇します。
その後、パンタグラフを上昇させることで集電を開始し、
高圧計が直流区間で約1500V程度まで上がります。
SIV・コンプレッサーの動作確認
パンタグラフ上昇後、各機器が正常に動作するかを確認します。
・SIV:車両機器に適した電圧を供給する装置
・コンプレッサー:ドアやブレーキに使う空気を作る装置
どちらも電車の基本機能に直結する重要な装置です。
下回り点検

床下機器の状態を確認します。
・機器の破損状態
・空気漏れ(漏気)の有無
・台車の異常の有無
特に重要なのがブレーキシリンダコック(BCコック)の向きの確認です。
向きが反対になっているとブレーキが効かなくなる可能性があります。
ドア試験

すべてのドアを開扉し、正常に開いているかを1つ1つ目視で確認します。
ブレーキ試験

ブレーキは電車の中で最も重要な機能です。
・常用ブレーキが効くか
・非常ブレーキが動作するか
・ブレーキが正常に緩むか
を圧力計を見ながら確実に確認します。
車内点検

・室内温度が適正か
・照明(蛍光灯)が点灯しているか
など、お客さんが快適に利用できる状態かを確認します。
車内警報装置の試験

お客さんが使用する非常ボタンが正常に作動するかを確認します。
起動試験
ブレーキをかけたまま停車状態でモーターに電気を流し、
起動できるかを確認します。
出区点検(出庫点検)にかかる時間はどのくらい?
編成両数によって異なりますが、目安は以下の通りです。
・5両編成:20分
・10両編成:25分
また、車内外を往復して点検するため、
10両編成では約800mを歩くことになります。
始発前の早朝に起床してすぐに行うことも多く、寒さや雨の中での点検はかなりしんどいです。
それでも一つの見落としが重大事故につながる可能性があるため、気の抜けない作業でもあります。
新人運転士の試験でも行う出区点検(出庫点検)
新人運転士の試験では、運転技術だけでなく出区点検も評価されます。
・100以上の点検項目を順番通りに暗記
・ミスなく正確に実施
・制限時間内に完了
さらに試験では、あえて異常状態が仕掛けられており、
それを見抜くことも重要です。
もし手順や発声を間違えた場合は、「もとい!」と言ってやり直します。
実際に出区点検であった重大なミス
出区点検は安全運行の最初の砦ですが、わずかな確認漏れが重大事故につながる可能性があります。
ここでは、実際に起こりうる代表的なミスを紹介します。
ブレーキのかけ忘れによる流転
勾配のある場所でブレーキを緩めたまま運転台を離れてしまい、電車が勝手に動き出してしまうケースがあります。
最悪の場合、車庫から本線へ流れ出し、営業列車と衝突・脱線する危険性もある非常に重大なミスです。
パンタグラフを一部上昇させずに出区
パンタグラフを上げた後は、すべてのパンタグラフが確実に上昇しているかを目視で確認する必要があります。
一部が上がっていないまま出区すると、特に古い車両では本線走行中に、起動不能になる可能性があります。
ミスに気づかず車両故障と思いこむ
意外と多いのが、自分のミスに気づかず「車両故障」と思い込んでしまうケースです。
例えば、ドアを開けたままにしていることに気づかず、パイロットランプが点灯しない原因を車両故障だと判断してしまうことがあります。
異常を感じたときは、まず自分の操作や手順を疑うことが大事だったりします。
まとめ
出区点検は、電車の安全運行を支える運転士の重要な業務です。
100項目以上にも及ぶ点検を短時間で正確に行い、車両の状態を万全に整えることで、はじめて電車は安全に走り出すことができます。
一見地味な作業に見えるかもしれませんが、わずかな確認漏れが重大な事故につながる可能性もあり、非常に責任の重い業務です。
実際に、BCコックやパンタグラフの確認不足といったミスは、大きなトラブルに発展するおそれがあります。
だからこそ運転士は、一つひとつの動作を確実に行い、常に自分の操作を疑いながら点検を行っています。
私たちが普段何気なく乗っている電車は、このような見えない努力によって支えられています。
