悲しいことに毎日のように起こる人身事故、電車を利用する人ならとても他人事ではありません。
私が運転士時代によく聞かれていたのが「人身事故があると鉄道会社から何億円もの賠償金が請求されるって本当?」ということ。
今回は電車で人身事故が発生した場合の賠償金はどうなっているのか、元電車運転士の私が知っていることをお話ししていきます。
ファルコ
1970年生まれ。鉄道会社に入社し、駅員(1年)→車掌(3年)→運転士(30年)に従事。鉄道ファンだけでなく普段から電車を利用するすべての方が分かるような記事作りを心掛けています。
電車の人身事故で鉄道会社が被る損害
振替輸送費
人身事故が発生すると他の鉄道会社へ振替輸送がおこなわれます。
振替乗車の件数は各駅で集計され、のちに鉄道会社間で精算がおこなわれます。
首都圏で通勤時間帯ともなると膨大な金額になるのが容易に想像できます。
運賃を200円、1万人のお客さんが振替輸送を利用したと見積もったとしたら200万円かかります。
200円×1万人=200万円
車両の修理費
人身事故では運転台の前面ガラスが割れたり、車両のスカートや床下機器が壊れたりします。
もちろんそのままでは走らせられないので修理することになります。
普通電車で1両約1億円、電気機関車約4億円もすることから部品や修理費も高額です。
ちなみにガラスの修理代は自動車の場合、約10万円かかるので電車のガラスの大きさを考えると約50万円くらいはかかりそうです。
社員の人件費
人身事故が発生すると現場に派遣される社員がいたり、駅員や乗務員が人身事故の対応や列車の遅延で時間外労働をすることになります。
残業代5000円が社員100人に支払われると見積ると50万円かかります。
5000円×100人=50万円
電車の人身事故で何億円もの賠償金を請求されるのか
上で見積もった鉄道会社の損害は合計して280万円です。
運転再開まで時間がかかったり車両へのダメージが大きければこれ以上かかりますが、どんなに大きく見積もっても1000万円以上になるようなことはなさそうです。
実際の例をみていきましょう。
2007年に認知症の方が線路に入り、人身事故が発生した際にJR東海が振替輸送費534万円、人件費184万円を遺族に請求した裁判がありました。
結果ではJR東海の敗訴となりましたが、人身事故の損害の金額が明らかになりました。
これらのことから人身事故で何億円もの賠償金がかかるという噂は嘘ということになります。
電車の人身事故で遺族への賠償金の請求は現実的に難しい
本人が亡くなった場合、遺族が相続放棄すると賠償金の請求はされません。
しかし、JR東海の事例のように認知症の方だったり子供が人身事故にあった場合、親族が監督責任を怠ったとして賠償金を直接請求される可能性があります。
この場合には自己破産の手続きをすることで賠償金の請求はされなくなります
これらのことから高額な賠償金の請求をしたとしても実際に支払いはされず、現実的ではありません。
請求をしなかったり、支払いが可能な範囲で和解されるケースがほとんどではないでしょうか。
あとがき
今回は電車で人身事故が発生した場合に遺族に対して賠償金がおこなわれるのか、私のわかる範囲でお話しさせていただきました。
鉄道会社は高額な請求をすることで世間的なイメージの低下は避けられず、泣き寝入りせざるを得ないというのが現状です。
電車の運転士や救助にあたる人も精神的ダメージを受け、利用するお客さんも電車の遅れで不利益を被ります。
さまざまな要因があるにせよ悲しいことだらけの人身事故、なくなることを切に願います。