電車に乗っていると「危険を知らせる信号を受信したため」や「緊急停止を知らせる信号を受信したため」というような放送を聞くことがあります。
そして、原因を聞けば全然関係ない路線…。
なぜ関係のない路線まで遅れるの?という風に普通は思いますよね。
この広範囲の遅れの原因にもなる危険を知らせる信号を発信、受信するものを列車防護無線装置といい、過去の大きな事故の教訓で使われ始めたシステムなのです。
今回はこの列車防護無線装置、略して防護無線についてどのようなものか、どのような時に使われるのか、元電車運転士が経験談を含めて詳しく解説していきます。
ファルコ
1970年生まれ。鉄道会社に入社し、駅員(1年)→車掌(3年)→運転士(30年)に従事。鉄道ファンだけでなく普段から電車を利用するすべての方が分かるような記事作りを心掛けています。
防護無線とは?
簡単にいうと二重事故を防ぐための装置です。
運転台にある防護無線の発報ボタンを押すことで、周囲約1km~2kmの範囲内の全ての電車を停車させることができます。
ただし、停車は自動ではありません。
受信した側の電車の運転台の防護無線からは「ピピピピピッ」という大きな警報音が鳴り響くのでそれを聞いた電車の乗務員が非常ブレーキで停車させます。
ちなみに防護無線が届く範囲は約1km~2kmとされていますが、ひらけた場所とかですと10km、20km先まで電波が届いてしまうことがあります。
防護無線が開発された経緯
鉄道員なら知らない人がいないであろう三河島事故が防護無線の開発のきっかけです。
1962年5月3日に国鉄常磐線、三河島駅構内で列車が衝突、脱線したにも関わらず、さらに他の列車が現場に進入し160人もの方が亡くなりました。せめて3本目の列車が進入してこなけばここまでの犠牲者はでなかったのです。
ここで周囲の列車を止める必要のあるときに即座に止められるシステムとして防護無線が開発され、導入されました。
現在はJR、私鉄のほぼ全ての路線で導入されています。
このように鉄道は過去の事故の経験から安全性が向上してきたという歴史があるのです。
防護無線が発報される原因
基本的に運転に支障する路線が不明な非常事態があった場合、電車の乗務員は防護無線を発報し、周囲の列車を一斉に停車させます。
その後、支障のないとわかった路線を指令所の判断で順次運転再開させます。
人身事故が発生した場合
電車の運転士は人身事故が発生すると二重事故のリスクを考え、防護無線を発報します。
これにより支障があるか不明な近くの線路に列車が進入してくるのを防ぎます。
人が立ち入ったり、転落した場合も同様です。
自動車等が立ち往生している場合
電車の運転士が車や自転車などの立ち往生を発見したら防護無線を発報します。
これにより、他の列車の乗務員も早く気付き現場より手前に安全に停車させることができます。
異音がしたとき
電車の運転士は原因不明な異音を確認したとき、二重事故を防ぐために防護無線を発報します。
原因がわからないので、他の線路に障害物がある可能性も考えられます。
走行中にドアが開いた可能性があるとき
走行中にドアが開くと運転台のパイロットランプが消灯し、運転士はお客さんの転落の可能性も考えて防護無線を発報します。
車内の非常用コックが扱われることでドアが開いてしまうことがまれにあります。
停止信号を越えた時
電車が信号機を通過するときに何らかの原因で赤信号になり、停止信号の内側に入ってしまった場合は電車の運転士は他の列車との衝突も考え、防護無線を発報します。
防護無線を発報するのには勇気がいる
防護無線は周囲の電車を全て止めるので、特に電車の本数が多いエリアでは影響が大きいです。
事象にもよりますが、防護無線を発報する前に発報するか?しないか?少なからず一瞬は迷うものです。
それだけ自分の判断で電車を止めるというのは勇気がいるし難しいのです。
特に防護無線ともなると、多大な影響がでるしその後の取り扱いもたくさんあります。
現場では迷いや動揺で電車を止められない、防護無線を発報できなかったというのは他山の石としてよく聞く話しです。
このようなことがないように乗務員は迷ったら止めるように普段からしつこく指導されています。
あとがき
今回は広範囲の電車の遅れの原因の元となる防護無線についてお話ししました。
広範囲の電車を止めてしまうことよりも二重事故を起こさせないことの方が重要なのでこのような処置がとられています。
忙しい時間に関係のない路線まで遅れるのはイライラすると思いますが、少しでも軽減していただけたら幸いです。