​2026年、なぜJR東日本でトラブルが続くのか?元鉄道員が語る「連鎖」の真相

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JR東日本のトラブル

2026年に入り、わずか1ヶ月ほどの間にJR東日本で大規模な輸送障害が相次ぎました。日常的に利用している方々にとっては、まさに「またか」と頭を抱えたくなるような事態だったはずです。

ただ、これらのトラブルは他の鉄道業界全てにおいても他人事ではありません。

今回はこのようなトラブルが起こるさまざまな要因について鉄道会社に属していた私がお話していこうと思います。

ファルコ

ファルコ

1970年生まれ。鉄道会社に入社し、駅員(1年)→車掌(3年)→運転士(30年)に従事。鉄道ファンだけでなく普段から電車を利用するすべての方が分かるような記事作りを心掛けています。

この記事の目次

JR東日本を襲った相次ぐトラブルの深刻な実態

2026年に入ってから約1ヶ月の間に複数のトラブルが発生し、利用客に大きな影響が出ました。

  • 1月16日:田町駅付近での停電
    約8時間にわたり運転を見合わせ、約67万人に影響。
  • 1月30日:上野駅での架線断線
    約7時間の運転見合わせ、約23万人に影響。
  • 2月8日:宇都宮線(古河~野木間)での架線断線
    最長約17時間の運転見合わせ、約19万人に影響。

これら3つのトラブルだけでも、短期間に合計約109万人という膨大な利用客の足が奪われたことになります。単なる「偶然」では済まされない、異常事態と言えるでしょう。

JR東日本社長が認めた「修繕費800億円削減」の衝撃

これらのトラブルを受け、JR東日本の社長が謝罪会見を行いました。その中で、私が最も驚き、かつ危惧したのは「修繕費の大幅な削減」への言及です。

会見では、コロナ禍の影響を受けた2020年からの3年間で、修繕費を約800億円も減らしていたことが、一連のトラブルに繋がった可能性を認めました。

鉄道の現場を知る身として、経営トップが「安全の要」であるはずの修繕費削減と、実際のトラブルとの因果関係を公に認めたことは、極めて重い事実だと感じています。

鉄道会社が抱える「高すぎる固定費」というジレンマ

今回の事態は、決してJR東日本だけの問題ではなく、日本の鉄道業界全体が抱える共通の課題を浮き彫りにしています。その最たるものが「固定費の高さ」です。

鉄道経営には、他業種とは比較にならないほどの莫大なコストがかかります。

  • 広大な敷地の維持管理
  • 車両や線路、信号設備、架線といった膨大なインフラの更新
  • これらを支える高度な専門技術を持った人員の確保

鉄道は、客が一人も乗っていなくても設備を維持し続けなければなりません。そのため、売上が少しでも下がると収益は一気に悪化し、容易に赤字へと転落してしまう「構造的な脆さ」を抱えているのです。

厳しさを増す経営環境と「コスト削減」の限界

追い打ちをかけているのが、コロナ禍をきっかけに定着したリモートワークです。

特に通勤定期の利用者が激減したことは、都市部を地盤とする鉄道会社にとって致命的なダメージとなりました。観光特化型の路線と違い、生活路線を支える鉄道会社ほど、収益モデルの再構築を迫られています。

この厳しい経営環境下で利益を確保しようとすれば、どうしても「コスト削減」に踏み込まざるを得ません。

今回のトラブルの引き金となった修繕費の削減も、まさに背に腹は代えられないギリギリの経営判断だったのでしょう。しかし、その結果が「100万人以上の足」を止める事態になったのであれば、削減のあり方を根本から見直す時期に来ているのかもしれません。

加速する「子会社化・外注化」と現場の乖離

現在、鉄道業界では業務の効率化を目的とした子会社化や外注化が猛烈な勢いで進んでいます。

例えば、駅業務の多くはグループの子会社へ、線路の保守や架線の張り替えといった専門的な工事は外部の建設会社へ委託されています。

  • コストカットの側面:親会社より賃金体系を抑えることで、膨大な人件費を圧縮できるという経営上のメリットがあります。
  • 現場でのリスク:しかし、実態は「別会社」の集まりです。組織が細分化されたことで、かつてのような「阿吽の呼吸」での連携や、迅速な意思疎通が難しくなっています。

本来、鉄道はすべての部門が一体となって安全を支える「総合システム」です。しかし、コスト優先で組織を切り離しすぎた結果、情報共有の漏れや責任の所在が曖昧になるなど、トラブルを誘発する一因になっているのではないかと危惧しています。

断絶された「技術の継承」と歪な年齢構成

特にJRにおいて深刻なのが、国鉄から民営化される過程で生じた採用の空白期間による影響です。

民営化前後、経営再建のために採用人数が極端に絞り込まれた時期がありました。その結果、現在の鉄道現場では、熟練の技術を持つベテラン層と、経験の浅い若手層の間を繋ぐ「中堅層」がポッカリと抜け落ちています。

  • ベテランの知恵が届かない:本来なら現場で伝承されるべき、数値化できない「異常への違和感」や「長年の勘」が、若手へ十分に引き継がれていません。
  • 経験不足の露呈:トラブルが発生した際、現場で臨機応変に判断できる人間が少なくなっていることも、復旧に時間がかかる要因の一つではないでしょうか。

人不足を補う「ハード面への過度な依存」

深刻な人手不足とコスト削減を補うため、鉄道各社は現在、テクノロジーによるハード面の自動化に活路を見出しています。

具体的には、これまで人間が目視で行っていた点検を車両搭載カメラによる画像解析に置き換えたり、車掌の役割をシステムで代替するワンマン運転の導入を加速させたりしています。

もちろん、最新技術による効率化は否定しません。しかし、機械は「想定外の事態」に弱いという側面があります。現場の人間力が低下している中で、ハード面だけに頼りすぎる体制は、一度トラブルが起きれば制御不能に陥る危うさを孕んでいるのです。

あとがき:安全の「最後の砦」を守るために

今回は、現在の鉄道業界が直面している構造的な問題と、急激に進む効率化が抱える「目に見えないリスク」についてお話しさせていただきました。

効率化やコスト削減、最新技術の導入。これらは人口減少社会において鉄道インフラを維持するために、避けては通れない道なのかもしれません。しかし、その過程で「安全」という鉄道の絶対条件が、効率の二の次になってしまっては本末転倒です。

現場でハンドルを握り続けてきた私から見れば、どんなに優れたシステムであっても、最終的に乗客の命を守るのは「人」の判断と、日々の地道なメンテナンスに他なりません。

現場の人間力が低下している今だからこそ、鉄道会社には「効率の先にある安全対策」を、より一層徹底してほしいと切に願っています。