
電車を利用していると、よく「車両点検の影響で電車が遅れております」という案内を耳にすると思います。
実は、その原因の約9割は「エアセクション」と呼ばれる区間に停車した場合です。
今回は、元運転士の経験を交えて、エアセクションの仕組みや停車時のリスク、運転士の対応までわかりやすく解説します。
ファルコ
1970年生まれ。鉄道会社に入社し、駅員(1年)→車掌(3年)→運転士(30年)に従事。鉄道ファンだけでなく普段から電車を利用するすべての方が分かるような記事作りを心掛けています。
この記事の目次
エアセクションとは?

電車に電気を供給する電線を「架線」と呼びます。
架線が1本でつながっていると、変電所でトラブルが起きた場合、全区間が停電してしまいます。これを防ぐため、変電所ごとに架線を分けて設置しています。
すると、必然的に2本の架線が並ぶ箇所が生まれます。この部分がエアセクションになります。
変電所は数km〜10km程度の間隔で設置されているため、エアセクションも同じくらいの間隔で存在しています。
エアセクションに停車するとどうなる?
エアセクション上で電車が停車すると、架線が切れてしまう可能性があります。
理由は、2つの架線に電圧差がある場合、大電流が流れてパンタグラフと架線の間に負荷がかかるからです。電圧差は、変電所までの距離や間にいる電車の本数の差によって生じます。
ただし、実際に架線が切れるケースは非常にまれであり、複数の条件が重なった場合に限られます。
それでも影響が大きいため、鉄道会社では架線が切れないように対策を行っています。
過去にエアセクションで架線が切れた事例
JR東北線 さいたま新都心駅付近(2007年6月22日)
通勤時間帯に運転士が停止信号手前で誤ってエアセクションに停車し、架線が溶断。運転再開まで約5時間、約18万5千人に影響。
JR京浜東北線 横浜駅付近(2015年8月4日)
運転士が停車した際、架線が溶断。運転再開まで約6時間、約35万人に影響。花火大会の開催日でもあり、大きく報道されました。
JR神戸線 元町駅付近(2015年11月16日)
停止信号手前で誤停車により架線が溶断。運転再開まで約5時間、約15万人に影響。
エアセクションに停車してしまう原因
非常時の停車
防護無線や踏切の障害物検知など、直ちに停車が必要な場合はエアセクション上でも停車せざるを得ません。
運転士のミス

先行列車との距離が近づき、停止信号手前で停車する際、エアセクションに気づかず、停車してしまうことがあります。現在は看板の設置などでエアセクションの場所がわかりやすくなり、運転士が間違えて止める可能性は低くなっています。
エアセクション停車時の運転士の対応
停車した場合、まず全パンタグラフを下げることで架線が切れるのを防ぎます。
指令所に停車位置を報告後、エアセクションにかかっていないパンタグラフだけ上げて電車を安全な位置まで移動。再度停車後、全パンタグラフを上げて運転再開します。所要時間は5~15分ほど。
ただし、パンタグラフを下げると空調や電灯が消えるため、特に真夏や夜間は乗客への影響が大きくなります。
エアセクション以外のセクション
セクションにはエアセクションだけでなく、いくつかの種類が存在します。
ウッドセクション
異なる変電所から供給される架線の間に、木製の絶縁体を設置して電気的に分断する方式です。
エアセクションのように2本の架線が並ぶ構造ではなく、1本の架線の途中に絶縁体を挟むのが特徴です。
FRPセクション
繊維強化プラスチック(FRP)製の絶縁体を用いたセクションです。
構造はウッドセクションと同様で、1本の架線の途中に絶縁体を設置して区切ります。
なぜエアセクションと呼ばれるのか?
ウッドセクションやFRPセクションは、それぞれ使用している素材が名前の由来になっています。
一方でエアセクションは、特定の素材を使って分断するのではなく、架線を2本に分けて物理的に離す構造になっています。
その2本の架線の間には何も設置されておらず、間を隔てているのは「空気」だけです。
このことから、空気(エア)で区切られているセクションという意味でエアセクションと呼ばれています。
エアセクションのメリット
エアセクションの大きなメリットは、走行中に電気が途切れないことです。
そのため、パンタグラフや機器への負担が少なく、運転中も安定した走行が可能になります。
さらに、エアセクションは特別な絶縁素材を使用せず、架線の配置によって物理的に構成されています。
そのため、設置コストを抑えやすいという点もメリットのひとつです。
セクションは数多く設置されるため、このコスト面の優位性は非常に大きいといえます。
車両点検のエアセクション以外の原因とは?
車両点検の9割を占めるのがエアセクション対応と伝えましたが、残りの1割には次のような原因があります。
- ドア故障
開かない場合はロックして運転再開できますが、閉まらない場合はそのままでは安全上問題があり、対応に時間がかかることがあります。 - ワイパー故障
雨天時など前方視界が確保できない場合、係員を派遣して修理を行います。 - ガラス破損
人身事故、鳥との衝突や投石などで発生し、係員による応急措置後に運転再開となります。 - ブレーキ不緩解
ブレーキが緩まなくなる故障で、状況によっては長時間の運転見合わせになることもあります。 - 起動不能
電車が動き出せない状態で、ほかの列車による救援が必要になる場合は長時間の運転見合わせにつながります。
あとがき
今回は、車両点検の主な原因である「エアセクション」の仕組みや、停車時のリスク、運転士の対応について解説しました。
エアセクション上で停車してしまった場合、復旧までに最大15分程度かかることがありますが、これは架線切断による数時間規模の運転見合わせを防ぐための重要な作業です。
今後は設備の改良や技術の進歩によって、より安全で遅れの少ない運行が実現していくことが期待されます。
一見すると「なぜこんなに時間がかかるのか」と感じると思いますが、その背景には大規模な遅延を出さないために必要な処置であることを少しでも思い出していただけると幸いです。
